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【自作小説】World Resetter ~Crossing Memory~「第11話 ほんとうの君は」

 ……えっ?

 ……あれっ?

 俺は仏壇の元へ歩み寄り、その写真を至近距離で見つめた。何度も目をこすった。しかし、何度見直しても、どれだけ大胆な見間違いをしたとしても、その写真に写っていた少女は、瑠香だった。
「あれ……早苗って、誰だったんだ?瑠香は、誰なんだ?この写真に写っているのは……?俺が好きだったのは……?本当は、どっちなんだ?」

 結局、なんとか平静を装ってその仏壇の前で手を合わせ、早苗の家を後にした。その後、早苗の行きつけだった喫茶店へと向かった。道中、どうしても我慢ができなくなり、細い路地の奥の側溝に向かって嘔吐した。いま、俺自身に突き付けられたその事実は、そのまま鵜呑みに受け入れることは不可能で、かみ砕いて自分なりに解釈して受け入れるにはあまりに大きすぎるものだった。いまの俺は高校生で未成年であるためお酒は飲めないものの、かつて人生やり直しに巻き込まれていた時には成人として人生を送っていた時期もあり、その時には当然飲酒もしていた。当時の俺になぞらえて今の状況を例えるとすれば、大量に飲酒した結果記憶が飛び、胃袋を裏返しにしたかのように激しく嘔吐するときの状況に似ていた。今の俺には、あるいは胃洗浄が必要なのかもしれない。
 口元の不快感を拭えぬまま喫茶店へ入る。いつも座っているカウンター席には、学校でもかなり有名なアイドル的存在の女子と、そんな女子とはまるで釣り合わなさそうな平凡な男子が何やら喧嘩をしていた。意外なことに、迫っているのは女子のほうだった。彼女は、学校でアイドルと呼ばれているのがまるで嘘であるかのように激昂していた。彼らは、入口のドアの鈴の音に気付いて一瞬こちらに視線を送ったが、俺と彼らはほとんど面識がなく、彼らも俺がまさか同じ学校の生徒であるとは気づいていないようで(あるいは彼らも俺の顔と名前は知っているが、今はそれどころではないのかもしれない)、すぐ喧嘩を再開していた。彼らの邪魔をするのも悪いので、俺は奥のテーブル席へ進んだ。すぐに歩み寄ってきたマスターにとりあえずの事情を話し、まずは水をもらった。飲食を全く受け付けないわけではなかったため、その後にコーヒーとお菓子—奇しくも俺が頼んだそれらは、早苗がかつてこの喫茶店でよく頼んでいたセットだったという—を注文した。
「で、今日はどんな相談だい?」
 久しぶりに、あるいは、おそらくすべての問題が解決してから初めて訪れたはずであるにもかかわらず、マスターはまるで俺がずっと昔からの常連客であるかのように話しかけてきた。とはいえ、なぜか俺自身も以前何度かこの喫茶店に来たという記憶があったので、そういうものだとしてマスターの質問に答え、自分が今まで早苗だと思ってた人物が瑠香かもしれないということ、あるいはその逆かもしれないということ、どちらが本当なのか、今の自分にそれを知ることができないこと、胸の内のすべてを明かした。マスターは、俺の話をすべて聞き終わった後、再びカウンターの奥に行き、新しくコーヒーを2つ入れて持ってきた。一つは俺に差し出され、もう一つはマスターが自分で飲み始めた。マスターの行動は、まるで俺の話など最初から聞いていなかったかのようにマイペースで、あるいはこの世界の時の流れを全否定しているかのようだった。
「さすがの私でも君のような人生経験はないから、的確なアドバイスを送ることはできないなあ。でも……ある一つの物事に熱中しすぎると、どうしても周りが見えなくなってしまう。心が少しでも乱れたり、ちょっと記憶に齟齬が生じるだけで、世界の因果は大きく捻じ曲げられてしまう。それは人間だれしも起こることで、そのこと自体は決して悪いことではない。けど、熱中しすぎたり固執しすぎたりすることで、心に余裕がなくなってきて、そのことが原因で何かを置き去りにしてたり、誰かを悲しませちゃったりしてるのであれば……君が、誰かが悲しむのを望まないなら……一度立ち止まってみて、自分の胸に手を当ててみて、視野を少し広げて因果関係を見つめ直してみるのも悪くはないと思うよ。目の前の景色を視界いっぱいに受け止めるのも、悪くはないぞ。なーんて、また変な独り言をしゃべってしまったね……」
「いえ。マスターにそう言ってもらえると、少し心が楽になりました。確かに、最近の俺は身の回りにいろんなことが起こりすぎて、肩に力が入っていたのかもしれません」
 そんなことを話し、それをまず体現するかのように大きく深呼吸し、店内を大きく見渡した。先ほどまで喧嘩していた二人はもういなくなっていた。「まいったなあ。二人ともお金払わずに出て行ってしまってる……まあ、どうせ明日も来るだろうし、その時に請求すればいいか」などとつぶやきながら、今しがた飲み干したコーヒーのカップとお菓子を乗せていた皿を片付けにカウンターの奥に引っ込んでいた。帰り支度を始め、コーヒーとお菓子の代金を手元に用意した。

「今日はありがとうございました」
 いくぶんさわやかな気分でマスターに代金を手渡した。
「また何かあれば、いつでもここに来なさい。的確なアドバイスはできないかもしれないけど、愚痴の受け皿ぐらいにはなってあげるよ」
 出口のドアを開ける。外のキリッと引き締まった空気が鼻を突き抜けていく。俺は、ふと思い出したようにマスターに尋ねた。

「ところで……私とマスターって、以前どこかでお話したこと、ありましたか?」

※この物語はフィクションです。

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