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5月, 2016の投稿を表示しています

【自作小説】ワールド・インターチェンジ「第9話 自分の気持ちに素直になること」

「誠くんは、誰かとお付き合いしたことってある?」 「ないよ。特に中学二年の頃にはもうこんな性格だったから、付き合うどころか、女子を好きになる気持ちすら起こらなかった。優は? ……って、聞かなくてもわかるか」 「そうね。私は中学の時は今みたいにみんなに囲まれてたから、誰かとお付き合いしようものなら壮絶ないじめが待っていたからね。小学校の時はそういうことはなかったけれど、その時は誰かを好きになること自体がなかったかな」 「中学の時から俺に会う前にかけてさ、なんかこう、人を好きになる気持ちっていうか、誰かを好きになったことってある? 答えたくなかったら言わなくていいけど」 「ない、って言ったら嘘になるかな。でも、少しでもいじめられないように、少しでも自分をよく見せよう、って気持ちが強くて、それが私のあらゆる気持ちを押し殺していたっていうか、そのせいで、学校以外の場所でも自分の気持ちを素直に表現できなくなって」 しばし沈黙。俺は相槌を打ちながら、優の言葉を自分の中で自分にわかる形に噛み砕いていた。優が続ける。 「でもね、最近変わったことがあるんだ。私ね、みんなの前でニコニコしてるし、ついさっき誠くんと話してた時もニコニコしてたでしょ? 誠くんには同じ笑顔に見えたかもしれないけれど、私には違うように感じた。なんだろう、みんなの前の笑顔は顔だけが動いているような感覚なんだけど、喫茶店で私が言いたいことを包み隠さず言った時の笑顔って、体の中から何かうずうずしたものがこみ上げてきて、意識しなくても自然に顔が動いちゃうっていうのかな。それで、少しだけわかった気がした。私、こういう場所ではちゃんと、自分の気持ちを素直に表現できているんだなあって。自分の思ったことを、加工せずにそのまま相手にちゃんと伝えられているんだなあ、って思った」 「実はさ、俺にもわかってた。喫茶店の中での優、心の底から明るかった。学校での優は、周りの奴らからすれば明るく見えるのかもしれないけど、俺には表面的な明るさにしか見えなかった。自分の気持ちを素直に表現できなくなる前の優のことは知らないけど、少なくとも俺には、今の、この夕方のひとときの優が、本物に見える」 「ずいぶん、暗くなったね」 「そうだな……」 気がつくともう夕暮れ時となり、東のほうからは夜が迫りつつあった。ここは山にも近い場所だし

【自作小説】ワールド・インターチェンジ「第8話 人生相談」

「やあいらっしゃいお嬢ちゃん。となりの坊ちゃんは久しぶりだね」 渋い声でオーナーがカウンターから声をかける。うれしいことに、オーナーは俺のことを覚えていてくれた。ここは、タバコのにおいや木のにおい、コーヒーの香りが複雑に混じり合い、この喫茶店にしかない空気を作り出していた。まるで別世界だった。客の出入りが少ないためか、店内はもっさりとした空気に満たされていて、それがこのお店の雰囲気とマッチしていて、気分の悪いものではなかった。たった今俺たちが入ってきたドアの周辺だけは、空気がピリッと冴えていた。 「おじさん、いつものコーヒーをお願い。彼にも同じものを」 優はここによく通っているらしく、オーナーに対してため口、注文は「いつもの」で通じる。ちょっとかっこいいと思った。そして俺たちはカウンターの端に座った。聞いた話では、ここが優の定位置らしい。 「はい、どうぞ~」 俺たちの目の前にコーヒーが置かれる。それは初めて来た時と同じ香りを放っていた。 「今日は私がおごるね。相談に乗ってくれたお礼」 「ありがとう。いただきます」 「なになに~相談って? おじさんが乗ってあげようか~」 「この前からおじさんに話しているのと同じことだよ。誠くんにも協力してもらうことにしたんだ」 コーヒーカップをつかみ、口へと運ぶ。あつっ。突如口の中に流し込まれた高温の液体に思わず声を上げて驚いてしまった。コーヒーはしばらく冷ましておくことにした。優も見たところまだコーヒーには手を付けておらず、飲みやすい温度まで冷ましているようだった。 それから、俺たち三人は会話を続けた。今は客がほとんど来ない時間帯らしく、オーナーはまるで俺たちの友人のように親しく会話に入って楽しんでいた。 「「ごちそうさまでした」」 二人のカップが空になったところで、俺たちは店を出た。ゆったりとした時間の流れる空間からシャキッとした慌ただしい空間に出た後も、俺たちの周りを喫茶店のぬくもりが包み込んでいた。 「今日はありがとね。明日からまた、よろしくね」 「あぁ、またな」 「あっそうだ! 誠くん、今ケータイ持ってる? アドレス交換しよっ?」 「えっ……あ、いいけど」 そして俺は携帯電話を彼女に渡す。俺は未だかつてクラスの人と関わりを持つことなんてあまりなかったから、女子はおろかクラスの男のアドレスす

【自作小説】ワールド・インターチェンジ「第7話 アイドルの悩み」

俺、姫路誠に再び大きな変化が訪れたのは、俺が世界を移動してから一か月ほどたったある日のことだった。七月に入り、長かった期末試験も今日でようやく終わりを迎えた。初めて世界を移動したあの時は、授業で学ぶこと全てが頭の中にするすると滞りなく入ってきて、苦労なく理解することができたのだが、今の世界に移動するときにこの点のスペックを落とすよう夢香にお願いしたため、あれから授業内容を理解するのが大変になった。取り残されそうになりながらもなんとか這いつくばり、テスト勉強でわからない部分を克服。テストはまずまずの出来だったと思う。まぁ、いつものようにやったまでなので、取りたてて特別なことでもないのだが。それでもほんのわずかな期間、完璧超人を体験したためか、何とも不思議な感覚である。テスト後の程よい疲労を全身に感じながら下足場を出たとき、誰かに肩を叩かれた。振り返ってみる。 「姫路くん……同じクラスの、姫路誠くん、だよね?」 そこにいたのは、俺と同じクラスの網干優さんだった。彼女はクラスのアイドル的存在としてあまりにも有名で、クラスメイトの名前と顔をあまり覚えていない、というか、覚えようとしない俺ですら、はっきりとその存在を認識していた。成績優秀、眉目秀麗、才色兼備......そんな言葉がぴったりと似合う彼女は、モデルでもやっているかと思えるほどのスレンダーな体型で、足も美しく、ロングストレートの黒髪がまぶしかった。かと思えば成績は常に学年トップを争うほどで、先生もよく授業中に彼女をべた褒めしていた。人当たりもよく、誰とでも親しく話をする。そんなわけで、当然のごとく彼女の周りには多数の男女の集団ができており、教室はいつも賑やかだった。俺はその様子を横目に見ながら、「なんだよ。アイドルに群がるオタクかよ」などと心の中でつぶやいていた。 こんな経緯があるのだから、俺と網干さんとの間に接点はないはず。何か俺に用事でもあるのだろうか。とりあえず、普通のクラスメイトと話すようなノリで言った。 「そうだけど。確かに俺が姫路誠だ」 「あ……えっと、えっとね。今日私、一人で帰るつもりだったんだ。でも偶然姫路くんに会って、私たち、あまり話したことないでしょ? だからせっかくの機会だし、一緒におしゃべりしながら帰らない?」 「あぁ、いいけど」 「ほんと!? ありがとう~。じゃあ帰ろっか」

【自作小説】ワールド・インターチェンジ「第6話 危機一髪」

俺は保健室で眠っていた。確か校舎裏の薄暗いところでボコボコにされて、その直後に夢香に呼び出されたのだから、あの場所で気を失ったままだったはず。ということは、誰かが俺に気付いて保健室に連れてきてくれたのだろう。周囲はカーテンに閉ざされていて、夕日で淡いオレンジに染まっていた。もうそんな時間か。左側に首を振ると、自分がさっきまで着ていたであろう制服とズボンが洗って干されていた。上に着ていたYシャツは大部分が真っ赤に染まったままで、とても今後着られそうにはない。ズボンは黒色のため、汚れはあまり目立たなかった。自分の体を見ると、体操服に着替えられていた。誰かが着せてくれたのだろうか。手の甲や腕には、まだペンキの色が残っていて、事の重大さを物語っているようだった。 俺はゆっくり起き上がろうとする。しかし、腹部が疼いてうまく起き上がれない。手の力を借りて何とか起き上がれた時、保健室のドアが開く音がした。足音がこちらに近づき、俺を外界から遮断していたカーテンが開かれる。やってきたのは担任の先生とクラス代表、それと俺を運んだか身を案じてきてくれたか、あるいはただ単に興味本位で来ただけかのクラスメイト数人だった。まずはクラス代表が話しかけてくる。 「なんか、見る限りすごいことになってるけど、大丈夫?」 「あぁ、腹がめちゃくちゃ痛いことを除けば大したことはないよ。たぶん歩いて帰れそうだ。悪いな、心配かけて」 「いいよ。とにかく無事でよかった」  皆が俺の無事を知り、安堵の表情を浮かべていた。先生が言う。 「君を殴ったの、野球部のあいつだったんだってな?君がペンキをかけられてどこかに連れて行かれる様子を見ていた人がいてね、こっそりついて行ったらボコボコにされる様子を目の当たりにして、それで慌てて先生に言いに来てくれたそうだ。先生たちも最初は信じられなかった。なんであの野球部がそんなことするんだって。とりあえず君をここに連れてきてから、念のため彼に事情を聞こうとした。そしたら向こうの方から自首しに来たものだから、それはそれはびっくりしたよ。いろいろ聞いたら、今までにも君に嫌がらせをしていたことも話していた。これは明らかに事件に相当するから、ということで、さっき生徒指導部長のところに連れて行ったよ」 「そうなんですか……」  先生の話を聞いて、俺はボコボコにされた後の手続きに

【自作小説】ワールド・インターチェンジ「第5話 世界の干渉」

「……さん! ……誠さん! 誠さん!! わかりますか!?」 「うっ……うーん」 気がつくと、俺は真っ白い空間の中に置かれたベッドで眠っていた。感触からして、自分の部屋のベッドではないらしい。壁や天井までもが真っ白、まぶしさで目が締め付けられるような刺激を受ける。 左側にはソファがある。そして、目の前には、美少女が抱きついていた。 「あ、気がつきました! よかった~……」 よく見ると、その少女は俺がいつか出会った、インターチェンジこと竜野夢香だった。彼女は前と同じ、制服チックな姿をしていた。髪は相変わらずウェーブがかかっており、横たわる俺に覆いかぶさるような格好のため、さらさらの髪が俺の首筋あたりをくすぐった。彼女の手は俺の耳の下あたりを、そっとなでるようにさすっていた。温かくてすべすべの、優しい手だった。セーターのちくちくした感触も頬に感じられた。 「……」 なぜだろう。この前の俺なら彼女の姿、行為そのすべてにきゅんきゅんし、萌え萌えして、軽く鼻血を噴き出すぐらいしているはずなのだが、今はそんな気は起こらない。そのかわり、胸の中にとても熱く、チリチリとした何かが渦巻いていて、体の中心部がむずがゆくなるような感触を味わっていた。それが何かは分からない。しかし、彼女にこうやって抱きつかれていることがその原因であるということはなんとなくわかった。顔が火照るような熱い感触にそろそろうなされそうになったとき、俺は一つの異変に気付いた。 「うっ……うっ……」 彼女が、突然泣き出した。か弱い声で嗚咽を漏らしながら、静かに涙を流していた。その涙は次第に目の中だけにはとどまれなくなり、こぼれ落ちた。それが、俺の頬を冷たく濡らし、流れ落ちて一筋の軌跡を俺に残した。そしてまた涙がこぼれてくる。 「ごめんなさい……ごめんなさい……」 俺は戸惑った。なぜ彼女が突然泣き出したのか、そして、なぜ俺に謝るのか。俺はどうすればいいかわからなかった。わからなくて、わけが分からなくなって……少女の頭にそっと手を乗せ、ゆっくり髪にそって一方向になでた。そうすると、彼女はさらに強く泣き出したものだから、 「ご、ごめん」 俺まで謝ってしまったじゃないか。 数分後、ようやく落ち着いた彼女は、涙をこすりながら言った。 「ごめんなさい、急に泣き出して。その、さっきはなでてくれて……うれ