その夜、俺はついに夢の世界に呼び出された。
何やら穏やかでない物音で目を覚ます。すくりと体を起こすと、ベッドの左少し離れたところで二人の少女が戦いのようなことをしていた。それも、ただのごっこ遊びのレベルではない。一方の少女の目つきは鋭く、本気で何らかの目的のために戦っているようだった。もう一方の少女は完全に力の面で劣っており、例えるならばいつゲームオーバーになってもおかしくない、といった状況であった。しかも、その少女は女の子であるにもかかわらず、生まれたままの姿で横たわっていた。俺のいる位置からは見えないが、彼女は女の子の大事な部分を隠す余力すら残されていないようだった。近くに夢香が来ていた服と思しき布があったが、どれもビリビリに破かれていて、とても着られるような状態ではなくなっていた。強いほうの少女は、そんな彼女の哀れな姿を嘲笑するかのようににらみつけていた。
「ねぇ! まだわからないの? お母さんはどこかの世界で生きてるの。そんなのそこらへんの塵でしかないわ」
「優さん、目を覚ましてください。あなたのお母さんがどの世界にもいないということは、この書類にしっかり証明されています。つらいお気持ちは私にもわかりますが、いつかはこの事実を受け入れなければなりません。今すぐは難しいかもしれませんが、まずはこの事実を受け入れる努力を」
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさあああああ~~~い!!」
そう言って強い少女は、弱い少女を鞭のようなもので繰り返し叩き付ける。皮膚がむき出しになった腹部をめがけて靴で蹴りを入れる。
「ああっ!! きゃあ! うっっ!」
「おいやめろ!!」
俺はこの惨状を直視することができず、目線を自分の足元に向けたまま、自分にも出したことのないような大声で叫んだ。二人の少女……夢香と優は、ようやく俺の存在に気付いたようで、戦うのをやめた。彼女たちが視界に入らなかったので実際はどうなのかはわからないが、たぶん二人ともこちらを注目していたと思う。
「優……いくら女同士だからって、こんなのおかしいよ。今の優の行動は、単なる復讐の範囲を超えている。それと夢香……優だってもしかしたら事実を受け入れようと努力しているかもしれないじゃないか。もうちょっと優しい言い方はできないのか。二人とも感情に身を任せ過ぎだ!」
「誠くん……」「誠さん」
俺の簡単な説得で、ようやく二人の頭上に燃え盛っていた怒りの炎が静まり始めたようだった。しかし、優はそうはいかなかった。
「誠くん、私はこんなでたらめを受け入れるつもりはないし、今もお母さんはどこかの世界で生きていると信じてる」
「じゃあそれを証明するものを出してみろよ。ほら、夢香だっt……」
「まぁ~、竜野夢香ったら、だ~いすきな誠くんの前で恥ずかしい姿さらけ出しちゃって~。どうする~? もう服はめちゃくちゃに破れてるし、今晩中その格好でいるのかな~?」
危うく夢香が生まれたままの姿であることを忘れかけるところだった。とっさに彼女から目をそらす。
「なんなら、今大事な部分を隠してるその手、私が無理やり動かしてあげようか。それで、誠くんに最高に恥ずかしい姿見せよっか。さすがの誠くんも、あんたに興奮しちゃって、変なこと始めちゃうと思うよ」
俺は優の言動があまりにも頭に来たので、自分のパジャマの上を脱いだ。
「ちょっと誠さん! 今、チラッと私のほうを見ていきなり服を脱ぎ出すなんて、こんな状況で何考えてるんですか! それと私、きっとひどい姿になっていると思います。あまり見ないでください!」
夢香が大事な部分を手で隠して、顔を真っ赤にして怒鳴った。
「違うよ!! ……ほら夢香、これ着ろ。服大きいから、これで最低限大事な部分だけは隠せるだろ……」
俺はできるだけ夢香とは逆の方向を見ながら、脱いだ服を放り投げた。もしかしてこの服を優に横取りされるのでは、とも思ったが、夢香はなんとかその服を受け取っていたようだった。とりあえずこれで最悪の事態は避けられるだろう。
「あ……ありがとうございます。やさしいんですね、誠さん……」
「へぇー。誠くん、やっぱり竜野夢香なんだ。そうなんだ。だったら私、誠くんにも同じことをしないといけないのね」
優が嫉妬全開の口調で俺たちを睨みつける。俺は上半身裸になってから、もしかして自分が防御不完全な状態で優に殴られ、蹴られるかもしれないという危機に直面した。
「優さん……もしあなたが、お母さんは今もどこかで生きていると信じるのであればそれでかまいません。しかし、それを理由にこの世界に不正に侵入し、誰かに危害を加えるのは間違っていると思います」
「優、俺も夢香の意見に同意だ。もし夢香をめちゃくちゃにする、言ってしまうと「消してしまう」ことですべてが解決するなら俺は何も言わない。でもな、もう一度、頭を冷やして客観的に考えてみろ。優が夢香を消したところでお母さんが戻ってくるわけじゃない。それに夢香は何も知らずにただの一般人を移動させたに過ぎない。夢香に何の罪があるというんだ?」
「それは……」
「俺、あらゆる可能性について考えてみた。もちろん、夢香のことをどう思うかとか、そんなことを一切抜きにして。でも、どうしてもわからないんだよ。優が、夢香を狙っている理由が」
「……」
優は、何か言いたげにしていたが、うまい言葉が見つからず、言葉として俺たちの理解しうる領域にその複雑な心境を引き出すことができないでいた。ちらっと夢香のほうを見ると、先ほど俺が放り投げた服を着用し、隠すべき領域をすべて包み込んでいた。あ、やべえ、これもしかして、夢香の肌、それだけじゃなくて、あんなところやそんなところが俺のパジャマに触れちゃってるんじゃねえの? そう思った途端、俺は顔が急に火照り、変な汗がにじみ出てくる。不自然に体が震えてくる。
「でも私は……許せない。確かに直接的には関係ないのかもしれない。こんなの、気休めでしかない。でもね」
優が一歩、また一歩と夢香に近づく。彼女が一体何を考えているのか、全く想像がつかない。しかし、先ほどの俺たちの説得では不足していたようだ。それから視線だけこちらに向けて続けた。
「たしかに竜野夢香は直接関係はないかもしれない。こいつは何も知らずに人を移動させたに過ぎないかもしれない。こいつは傍観者でしかないしむしろ私の被害者かもしれないしそもそもこの問題に巻き込まれるはずのない女だったかもしれない。でも……」
優が鞭を振り上げる。ベッドの位置からはただの鞭に見えたが、よく見ると先端に金属質の固そうな物体がついていた。しかも細かい凹凸までついている。いかにも殺傷能力の高そうなものだった。仮に夢香がこれで連日痛めつけられていたのだと思うと、苦しくて、言葉にならないいらだちを感じる。
「そんなことで、私を納得させられると思ってるの!?」
優が勢いをつけてその鞭を、夢香めがけて振り下ろした。
俺はとっさに、完全に無意識的に、夢香の前に入った。
バチンッ。
「あああああっっっっ!!」
痛い。痛くて、わけのわからない大きな声が出てしまう。
「誠さんっっ!!」
夢香の悲痛の叫びが後ろで聞こえた。
ようやく痛みが引きはじめたころ、俺は鞭で打ち付けられた箇所を確認する。横腹にまだ痛みが残っている。ひもの部分が当たった箇所にはミミズ腫れのような赤いラインが、先端が打ち付けられた箇所はひどく内出血が、それぞれ確認できた。それは今までも、これからも味わうことのないであろう痛みで、普段の俺ならショックで死んでもおかしくないほどだったが、それが夢香を守るためであることを承知の上で行動に出たため、むしろ夢香が味わったすべての痛みを俺に渡して、夢香に少しでも楽になってほしいとさえ思った。当然、たった一回のそれでも痛い。それを夢香は、つい先ほどだけでも五回近く受けていた。先日は、傷の状況から何十回も受けていたんじゃないかと考えられる。そう思うと、幾度にも及ぶ苦痛を耐え忍び、俺にあんな明るい表情を見せていた夢香は本当にすごいと思った。
すごい、だなんて、あまりに平凡な表現過ぎる。この世界に初めて来る前の俺が味わっていた精神的苦痛など、比較にもならないと思う。そういえば、男に殴られ蹴飛ばされ、犯されそうになったとも話していたな。なのに俺たちの幸せをただひたすらに願って世界の移動の手続きをする。夢香は本当に強い奴だな。
そのくせ、熱を出して寝込んでしまうという、弱々しい一面も持っていて、俺のちょっとした言葉ですぐ泣き出すし、俺がちょっと説教食らわすだけですんげえ素直になるし、ある時は俺なんかを頼って、甘えてきてくれて。ただただ可愛くて。そんな夢香は、実はすごく弱い奴なのかもしれない。
ほんっとうに、わけわかんない。俺はアホだ。強いか弱いかもわからないような奴に、俺は自分の人生をかけているんだから。発展の可能性があるかどうかもわからないプロジェクトに、有り金を全部投資するようなものだ。夢香に人生を振り回され、夢香によって自分の人生をぶっ壊されるかもしれないのに。いつまで彼女の助けを借りていられるかもわからない、なぜ彼女が俺を選び、俺を手厚く助けてくれているかもよくわからないのに。なのに、どうして。
「誠……何してるの? あなた、竜野夢香のことをかばうの? 私のことは? ねぇ!!」
理由なんて、最初から一つしかない。こうやってダラダラと格好つけて回想なんてしてみたが、結局俺が言いたいのは、そういう複雑なことを全部抜きにした、たったこれだけなんだ。
「俺は……困っている人がいたら助けずにはいられないんだよ。夢香がどうとか、そういうのは一切抜きにしてさ」
「何なの、ちょっと格好つけちゃって。そんなことで私を納得させ」
「悪いけど、俺のことを恋愛的な意味で好きになったのなら、今すぐ絶交してくれ」
「……は?」
何やら穏やかでない物音で目を覚ます。すくりと体を起こすと、ベッドの左少し離れたところで二人の少女が戦いのようなことをしていた。それも、ただのごっこ遊びのレベルではない。一方の少女の目つきは鋭く、本気で何らかの目的のために戦っているようだった。もう一方の少女は完全に力の面で劣っており、例えるならばいつゲームオーバーになってもおかしくない、といった状況であった。しかも、その少女は女の子であるにもかかわらず、生まれたままの姿で横たわっていた。俺のいる位置からは見えないが、彼女は女の子の大事な部分を隠す余力すら残されていないようだった。近くに夢香が来ていた服と思しき布があったが、どれもビリビリに破かれていて、とても着られるような状態ではなくなっていた。強いほうの少女は、そんな彼女の哀れな姿を嘲笑するかのようににらみつけていた。
「ねぇ! まだわからないの? お母さんはどこかの世界で生きてるの。そんなのそこらへんの塵でしかないわ」
「優さん、目を覚ましてください。あなたのお母さんがどの世界にもいないということは、この書類にしっかり証明されています。つらいお気持ちは私にもわかりますが、いつかはこの事実を受け入れなければなりません。今すぐは難しいかもしれませんが、まずはこの事実を受け入れる努力を」
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさあああああ~~~い!!」
そう言って強い少女は、弱い少女を鞭のようなもので繰り返し叩き付ける。皮膚がむき出しになった腹部をめがけて靴で蹴りを入れる。
「ああっ!! きゃあ! うっっ!」
「おいやめろ!!」
俺はこの惨状を直視することができず、目線を自分の足元に向けたまま、自分にも出したことのないような大声で叫んだ。二人の少女……夢香と優は、ようやく俺の存在に気付いたようで、戦うのをやめた。彼女たちが視界に入らなかったので実際はどうなのかはわからないが、たぶん二人ともこちらを注目していたと思う。
「優……いくら女同士だからって、こんなのおかしいよ。今の優の行動は、単なる復讐の範囲を超えている。それと夢香……優だってもしかしたら事実を受け入れようと努力しているかもしれないじゃないか。もうちょっと優しい言い方はできないのか。二人とも感情に身を任せ過ぎだ!」
「誠くん……」「誠さん」
俺の簡単な説得で、ようやく二人の頭上に燃え盛っていた怒りの炎が静まり始めたようだった。しかし、優はそうはいかなかった。
「誠くん、私はこんなでたらめを受け入れるつもりはないし、今もお母さんはどこかの世界で生きていると信じてる」
「じゃあそれを証明するものを出してみろよ。ほら、夢香だっt……」
「まぁ~、竜野夢香ったら、だ~いすきな誠くんの前で恥ずかしい姿さらけ出しちゃって~。どうする~? もう服はめちゃくちゃに破れてるし、今晩中その格好でいるのかな~?」
危うく夢香が生まれたままの姿であることを忘れかけるところだった。とっさに彼女から目をそらす。
「なんなら、今大事な部分を隠してるその手、私が無理やり動かしてあげようか。それで、誠くんに最高に恥ずかしい姿見せよっか。さすがの誠くんも、あんたに興奮しちゃって、変なこと始めちゃうと思うよ」
俺は優の言動があまりにも頭に来たので、自分のパジャマの上を脱いだ。
「ちょっと誠さん! 今、チラッと私のほうを見ていきなり服を脱ぎ出すなんて、こんな状況で何考えてるんですか! それと私、きっとひどい姿になっていると思います。あまり見ないでください!」
夢香が大事な部分を手で隠して、顔を真っ赤にして怒鳴った。
「違うよ!! ……ほら夢香、これ着ろ。服大きいから、これで最低限大事な部分だけは隠せるだろ……」
俺はできるだけ夢香とは逆の方向を見ながら、脱いだ服を放り投げた。もしかしてこの服を優に横取りされるのでは、とも思ったが、夢香はなんとかその服を受け取っていたようだった。とりあえずこれで最悪の事態は避けられるだろう。
「あ……ありがとうございます。やさしいんですね、誠さん……」
「へぇー。誠くん、やっぱり竜野夢香なんだ。そうなんだ。だったら私、誠くんにも同じことをしないといけないのね」
優が嫉妬全開の口調で俺たちを睨みつける。俺は上半身裸になってから、もしかして自分が防御不完全な状態で優に殴られ、蹴られるかもしれないという危機に直面した。
「優さん……もしあなたが、お母さんは今もどこかで生きていると信じるのであればそれでかまいません。しかし、それを理由にこの世界に不正に侵入し、誰かに危害を加えるのは間違っていると思います」
「優、俺も夢香の意見に同意だ。もし夢香をめちゃくちゃにする、言ってしまうと「消してしまう」ことですべてが解決するなら俺は何も言わない。でもな、もう一度、頭を冷やして客観的に考えてみろ。優が夢香を消したところでお母さんが戻ってくるわけじゃない。それに夢香は何も知らずにただの一般人を移動させたに過ぎない。夢香に何の罪があるというんだ?」
「それは……」
「俺、あらゆる可能性について考えてみた。もちろん、夢香のことをどう思うかとか、そんなことを一切抜きにして。でも、どうしてもわからないんだよ。優が、夢香を狙っている理由が」
「……」
優は、何か言いたげにしていたが、うまい言葉が見つからず、言葉として俺たちの理解しうる領域にその複雑な心境を引き出すことができないでいた。ちらっと夢香のほうを見ると、先ほど俺が放り投げた服を着用し、隠すべき領域をすべて包み込んでいた。あ、やべえ、これもしかして、夢香の肌、それだけじゃなくて、あんなところやそんなところが俺のパジャマに触れちゃってるんじゃねえの? そう思った途端、俺は顔が急に火照り、変な汗がにじみ出てくる。不自然に体が震えてくる。
「でも私は……許せない。確かに直接的には関係ないのかもしれない。こんなの、気休めでしかない。でもね」
優が一歩、また一歩と夢香に近づく。彼女が一体何を考えているのか、全く想像がつかない。しかし、先ほどの俺たちの説得では不足していたようだ。それから視線だけこちらに向けて続けた。
「たしかに竜野夢香は直接関係はないかもしれない。こいつは何も知らずに人を移動させたに過ぎないかもしれない。こいつは傍観者でしかないしむしろ私の被害者かもしれないしそもそもこの問題に巻き込まれるはずのない女だったかもしれない。でも……」
優が鞭を振り上げる。ベッドの位置からはただの鞭に見えたが、よく見ると先端に金属質の固そうな物体がついていた。しかも細かい凹凸までついている。いかにも殺傷能力の高そうなものだった。仮に夢香がこれで連日痛めつけられていたのだと思うと、苦しくて、言葉にならないいらだちを感じる。
「そんなことで、私を納得させられると思ってるの!?」
優が勢いをつけてその鞭を、夢香めがけて振り下ろした。
俺はとっさに、完全に無意識的に、夢香の前に入った。
バチンッ。
「あああああっっっっ!!」
痛い。痛くて、わけのわからない大きな声が出てしまう。
「誠さんっっ!!」
夢香の悲痛の叫びが後ろで聞こえた。
ようやく痛みが引きはじめたころ、俺は鞭で打ち付けられた箇所を確認する。横腹にまだ痛みが残っている。ひもの部分が当たった箇所にはミミズ腫れのような赤いラインが、先端が打ち付けられた箇所はひどく内出血が、それぞれ確認できた。それは今までも、これからも味わうことのないであろう痛みで、普段の俺ならショックで死んでもおかしくないほどだったが、それが夢香を守るためであることを承知の上で行動に出たため、むしろ夢香が味わったすべての痛みを俺に渡して、夢香に少しでも楽になってほしいとさえ思った。当然、たった一回のそれでも痛い。それを夢香は、つい先ほどだけでも五回近く受けていた。先日は、傷の状況から何十回も受けていたんじゃないかと考えられる。そう思うと、幾度にも及ぶ苦痛を耐え忍び、俺にあんな明るい表情を見せていた夢香は本当にすごいと思った。
すごい、だなんて、あまりに平凡な表現過ぎる。この世界に初めて来る前の俺が味わっていた精神的苦痛など、比較にもならないと思う。そういえば、男に殴られ蹴飛ばされ、犯されそうになったとも話していたな。なのに俺たちの幸せをただひたすらに願って世界の移動の手続きをする。夢香は本当に強い奴だな。
そのくせ、熱を出して寝込んでしまうという、弱々しい一面も持っていて、俺のちょっとした言葉ですぐ泣き出すし、俺がちょっと説教食らわすだけですんげえ素直になるし、ある時は俺なんかを頼って、甘えてきてくれて。ただただ可愛くて。そんな夢香は、実はすごく弱い奴なのかもしれない。
ほんっとうに、わけわかんない。俺はアホだ。強いか弱いかもわからないような奴に、俺は自分の人生をかけているんだから。発展の可能性があるかどうかもわからないプロジェクトに、有り金を全部投資するようなものだ。夢香に人生を振り回され、夢香によって自分の人生をぶっ壊されるかもしれないのに。いつまで彼女の助けを借りていられるかもわからない、なぜ彼女が俺を選び、俺を手厚く助けてくれているかもよくわからないのに。なのに、どうして。
「誠……何してるの? あなた、竜野夢香のことをかばうの? 私のことは? ねぇ!!」
理由なんて、最初から一つしかない。こうやってダラダラと格好つけて回想なんてしてみたが、結局俺が言いたいのは、そういう複雑なことを全部抜きにした、たったこれだけなんだ。
「俺は……困っている人がいたら助けずにはいられないんだよ。夢香がどうとか、そういうのは一切抜きにしてさ」
「何なの、ちょっと格好つけちゃって。そんなことで私を納得させ」
「悪いけど、俺のことを恋愛的な意味で好きになったのなら、今すぐ絶交してくれ」
「……は?」