俺は、半ば無意識的に、再びあの喫茶店を訪れていた。人生について困ったときにはマスターに尋ねればいい。人生経験豊富なマスターなら、きっと問題解決のための道筋を教えてくれるはずだ。鮮やかな期待を胸に、俺は重い木の扉を押し開いた。 「その質問については、答えることも、ヒントを与えることもできないな」 マスターは、俺の相談に終始耳を傾け、時折コーヒーを含みながら、まるで素晴らしい答えへの道程を示してくれるかのような素振りを見せておいて、このような淡白な回答にとどめた。マスターなら教えてくれると思ったのに。俺はマスターに裏切られたような気分で、怒りと悲しみを胸に抱きつつも、それでもマスターのこの発言にはまだ何か意味があるのではないかと思い、おそるおそる尋ねてみた。 「どうして、マスターはこの質問に答えてくれないんですか」 「それはね、残っている問題が君の心の中にあるたった一つの決断をどうするか、ということだけだからだよ。私は今まで、この世界の複雑な仕組みやいろんな問題が絡み合ったややこしい状態に対してアドバイスをしてきたけど、最後にどうするかは君の判断に委ねていただろう?今回もそれと全く同じことさ。この問題に関しては、世界の複雑な仕組みについては君はすでに理解している。ややこしい問題についても君はおおよそ理解できていると私は感じた。ならば、残るは君の心の中で判断を下すだけなんじゃないか?」 「だから、それに困っているからマスターに尋ねているのであって……」 「自分の人生の判断を他人に委ねる人ほど、愚かな者はいないよ。私がこの問題についてアドバイスをしたら、確かに君の心の中のもやもやは消えるかもしれない。でも、それは君の判断ではなくて、私の判断だろう?私の判断で二人、いや、君を入れた三人の人生が左右されて、君たちはそれを本当に幸せだと思えるのかい?人間は、たしかに誰かと助け合って生きていく生き物だけれど、なんだかんだで、結局独りぼっちにならなきゃならないんだよ。そういう意味では、君みたいに、すでに二人で助け合って生きていく未来が保証されている人生ほど、豊かなものはないと思うんだけどな」 俺は、マスターの言葉を理解するための脳の処理が追い付かなくなり、心身の激しい混乱で痙攣を起こしそうになった。そして、早くこの場から立ち去りたいという生存本能が働き、コーヒーの
このブログでは主に製品のレビュー、旅行のレポートや感想、日記や創作物などを掲載しています。