ふと気が付くと、肉体がふわふわと浮遊する感覚に陥っていた。そこが夢の世界であることはなんとなく想像がついたが、ただの夢の世界ではなく、その感覚には明らかに覚えがあった。しかし、それをいつ体験したかを思い出すことはできない。それを記憶の海から引き揚げ、意識のある領域に持ち出した瞬間、世界が、自分の今までの思い出が、すべて崩壊してしまうような気がして、俺の本能が思い出すことを拒んでいた。 「安藤……くん。恵吾、くん……」 俺はある少女に話しかけられる。以前にもおそらくこのような夢の世界で出会ったことのある少女だった。しかし、彼女の名前を思い出すことはできない。その声には明らかに聞き覚えがあり、中学時代、俺の恋を応援してくれた、瑠香と話すきっかけを作ってくれた、あの子の声とそっくりだった。しかし、どういうわけか俺は彼女の名前「だけ」覚えることができなかった。今聞こえた声が瑠香のものであったならば、すぐに声と名前が紐づき、きっとやまびこが返ってくるよりも早く、その名前を呼ぶことができたはずだ。なのに、どうして……なんとなくではあるが、彼女は俺にとっての大切な人のような気がする。そんな大事な、かけがえのない大切な人の名前を呼んであげられない自分が情けなくて、悔しくて、腹立たしかった。 「恵吾くん……恵吾、くん……」 それでもなお俺の名前を呼んでくる彼女の声は、心の底から俺のことを思い、俺のことだけを考えて名前を呼んでいるように聞こえて、それに応えることができない自分に対するいら立ちが徐々に高まり、 「っもう、やめてくれ……!」 実際に声に出たのか否かはわからないが、俺はそのように叫んでしまっていた。悪いのは彼女ではなく、自分なのに。こんなのただの八つ当たりだとわかっているのに。あぁ、いつかと同じように、俺はまたしても選択を誤ってしまうのか。やり直しの人生でいいことばかりしてきたから、きっとその罰が下ったのだ。この世界は、幸ばかりを受けている人に対しては不幸を与えなければならない仕組みになっているのだ。俺がついさっき、昔のやんちゃ集団に殺されたのも…… 結局、それから少女が俺の名前を呼ぶことはなく、俺は混沌とした空間で自らの周りに渦巻く様々な嫌悪の流れに揉まれ、なされるがままでいるしかなかった。 再び気が付いた時、真っ先に目に飛び込んできたのは、見
このブログでは主に製品のレビュー、旅行のレポートや感想、日記や創作物などを掲載しています。