俺は夢を見ていた。それが夢であることは体の浮遊感からすぐにわかったが、久しぶりに生々しい夢の世界に放り込まれた感覚だった。 「久しぶりだね、恵吾くん。……やればできるじゃん」 その声は、いつか夢の中で俺に説教を見舞った少女のものだった。そして、今ならその少女が誰か、はっきり思い出すことができる。 「……早苗」 「私の名前も、ちゃんと思い出せるようになったんだね。そう、私の名前は理堂早苗。恵吾くんに瑠香ちゃんと話すきっかけを作った女の子で、恵吾くんのことが大好きな女の子で、恵吾くんが瑠香ちゃんのことと同じぐらい愛してくれた……女の子、です」 早苗は顔を手で覆い隠し、もはや彼女と目を合わせることはかなわないように思えた。早苗の呼吸が震えている。きっと、俺が早苗ではなく、瑠香を選んだ悲しみを、そして、今までそんな瑠香と同じぐらい自分のことを愛してくれたことに対する嬉しさを、今の言葉で再認識し、感情を抑えきれなくなったのだろう。彼女の涙は、明らかに俺のすべての行動の結果によって生み出されたものであり、ゆえにこちらまで目頭が熱くなる感覚を禁じえなかった。 「……もうっ、恵吾くん!黙ってないでなんとか言ってよ!どうせ、私がこうやって泣いて顔を隠しているのを面白がっているんでしょう!」 「ち、違うわ!……そうじゃなくてさ!なんというか、いま早苗が悲しんでいるのは、俺がああいう決断をしたからなんだろ。そりゃあ、こっちだって、なんて言葉かけたらいいかわからなくもなるよ。なんか、ごめん」 「なんで謝るの!それに私、悲しくて泣いてるって、一言も言ってない!……すぐそうやって、自分が悪かったって思うんだもん、恵吾くん……昔から、ずっと」 早苗はその後しばらく黙り込み、この空間には沈黙が流れ続けた。しばらくして落ち着いたのか、早苗は顔を覆っていた手を離し、うつむきながらもゆっくりと話し始めた。 「でもね……いま私、すごく思うんだ。恵吾くんのそういうところも、ほかの良いところも悪いところもぜーんぶ含めて、私は、恵吾くんのことが好きだったんだな、って」 早苗が上目遣いで俺のことを伺う。そのまなざしはあまりに儚く、しかしとても力強く、俺に一時の自制を忘れさせた。自分でも気がつかないうちに口が動き始めていた。 「俺……やっぱり……っ!!」 「だめ。」 早苗がす
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