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【自作小説】World Resetter「第10話(終) 日常への回帰は、新たな非日常へのいざない」

 ふと気が付くと、俺は暗闇の中で眠りについていた。そして、顔も体も見えないが、おそらく自分の知っている誰かと、下腹部の一点を介した特別なつながりを営んでいた。そこに不安や怖れ、怯えなどの感情はなく、俺はいつか体験したことのある安心感に包まれていた。  そのつながりに至ってから何分経った頃に自らの意識が戻ってきたのかはわからない。しかし、意識が戻ってきてすぐに始めたには割に合わない気だるさを感じつつ、俺は絶頂に至り、今しがた特別なつながりをもっていたその人の「中」に、出した。普段の俺であれば、そもそもこういう状況に至る前に理性が何かものをいうはずで、それがなかったとしても絶頂のピークを過ぎたころにふと我に返り、自らの犯した罪の重さに気付くはずなのに、今の俺はそういった感情の起伏が全くなく、自他ともにゴーサインが出され、その状況は起こるべくして起こり、ごく自然な結果に終わったかのような、不気味なまでの安心感を覚えた。その行為は、いつ、どういう状況で発生したかは思い出すことはできないが、まるでいつか今と同じ行為を行っており、今のこれはその続きであるような気がした。そう思うとさらに安心感が増大し、俺はその人の「中」に、文字通り絞り出すように、全部出した。次第に気だるさが勝るようになり、俺は心地よい疲労と幸福感に包まれながら、再び眠りについた。  再び意識があるべき処へ戻ってきたときには、すでに朝になっていて、自らに心地よさを享受してくれた相手はもういなくなっていた。朝のまぶしい光を受けようと起き上がろうとしたとき、自分が泣いていることに気付いた。それはあくびによるものではなく、明らかに心の奥底からの、しかし自分にはよくわからない感情によって引き起こされていた。自分が泣いている、という事実に気が付くと同時に涙の量はさらに増加し、自分がわけのわからない感情に苛まれているという混乱した感情までも涙に直結して、次第に嗚咽を漏らさずにはいられなくなってきた。そして、その涙の正体は、ずいぶんと涙を流し、もう涙腺が枯れそうになるかと思われたころにじわりと現れた。 「そっか、俺は、早苗がいないことにこんなに泣いてたんだ。あぁ、もう早苗は、この世界中のどこを探してもいないんだ。俺が死しものぐるいでどれだけ探しても、俺がすべての財産や、ありったけの命を捧げてあらゆるものに願い、祈っても

【自作小説】World Resetter「第9話 君の名前、君の今」

 気が付くと、俺は真っ暗な空間に投げ出されていた。そこが暗い空間であることが認識できており、自分の思う通りに手足が動いている感覚がするため、おそらく意識は本来あるべき位置にあるのだと思う。しかし、その空間はあまりにも暗く、自分という存在が確かにここに存在しているにもかかわらず、実は俺は存在していないのではないかと錯覚すらしてしまうほどであった。  ふと、自分の目の前に少女が立っているのが確認できた。少女がそこにいることをこの目ではっきり認識できるのだから、何らかの光があるはずなのだが、なぜか自分の体は相変わらず暗黒世界に吸い込まれたままだった。首は上下左右に動かすことができるので、まるで自分が首から上だけの存在であるかのような、変な感覚に陥る。  目の前の少女は確かに見覚えがあった。あれは忘れもしない、俺にこの世界の「真理」を告げた直後、俺の目の前で轢かれて亡くなった少女だった。そしてなぜだろう、今ならはっきり思い出すことができる。あの激しい雷雨の日、俺の目の前で雷雨ではない原因で目の前で亡くなった少女の顔には、たしかにモザイクがかかっていたはずなのに、あの日のことを思い出す俺の脳が想起する少女の顔には、モザイクなどかかっていなかった。そして俺はさらにその前の記憶まで思い出すことができるようになっていることに気が付いた。その少女は、人生やり直しを行う前、すなわち瑠香と結ばれるルートに進まなかった俺が親しく接し、そして誰よりも好きだった女の子であること。その少女が、人生やり直しを行う直前、俺の軽率な発言によって不幸のどん底に突き落とされ、俺によって引き起こされた不慮の事故で亡くなった女の子であること。 「ようやく会えたね、安藤、恵吾くん。といっても……正確には二度目……いや、最初の世界を入れると、三度目だね」 「リドウ、サナエ……」 「やっと、思い出せたんだね。それは、私の名前。私の名前は、理堂早苗、あなたと同い年で、あなたがこれまで、理由がわからないながらもずっとその存在を追い求め続けてきた女の子。最初の世界で、あなたが唯一大好きになった女の子で、あなたが世界中の誰よりも愛してくれてた女の子。そして……そんなあなたのことが大好きで、今でも心の底からあなたのことを愛している、女の子です」  俺は、あまりに突然のことで思考が全く追い付いていなかった。つまり、